乳がん体験記

2.告知と病院選び

いざ結果を聞きに行くため診察室に入り、切り出された話は「乳癌でした」という結果でした。
正直全く予想していなかった話で実感がわきませんでした。
担当のS医師は冷静に、私の癌の症状は0期の非浸潤性乳頭癌であるため命に関わる状態ではないこと、まだ若く、妊娠の希望もあるのであれば、放射線治療を行わなくてすむ全摘手術を勧めるということ、その際は同時再建という方法があることを説明されました。
さらに今なら6月の手術にキャンセルが出たので、来月に手術が受けられるから、この日をおさえておきましょうと言われました。
癌の告知ってこんなにさらっとするものなのかと、正直驚きました。
今思えば私の進行度は他に抱える患者さんから比べたらずいぶんと軽いものであり、そこまで深刻に伝えなくても大丈夫なレベルだったと思えますが、当時は「え!?癌なの?告知なの?家族呼んだりしないの!?」という心境でした。
S医師もそんな私の戸惑いに気づいたのか、ひとまず今日は同時再建のDVDを借りて帰ってもらって、家族の人と見てくださいと言われ、次回の予約を取って終了となりました。

S医師のさらっと告知が、却って私の病状は深刻ではなのだと思えてきて、あまり深く考えることもできず、主人の帰宅を待ちました。
その間は非浸潤とはなにか?くらいを調べるに留まり、ボーっとしていたと思います。

主人が帰宅し、「実は乳癌だったよ」と伝えて、初めて自分でも実感を持った感じでした。

私とは違い心配性の主人は、その結果をなんとなく予想していたらしく、冷静に受け止めてくれました。
やはり検査をさらに詳しくやると言われたことで、最悪の結果もあり得ると覚悟していたようです。

ひとまずS医師から聞いた病状と手術内容の説明をし、ふたりで同時再建のDVDを見ました。
主人はDVDを見てしまうと、私に重なって見え悪い印象を持ってしまうかもと心配していましたが、DVDに出てくる患者さんの胸はきれいに再建されていて、「え!?これ全摘したの?」という具体例がたくさんありました。
かなり現実に忠実に作成されており、胸の映像もしっかりうつっていて、実際の患者さんの術前・術後の比較がたくさんありました。
手術内容についても映像で解説されており、非常に分かりやすかったです。
この映像を見て、手術するなら同時再建以外ありえないという意思を固めました。
しかし、この同時再建は保険適応外のため、有明病院では100万円かかるのです・・・。
ちょうど再建手術の保険適応がこの夏になされるかも、というタイミングだったのですが、保険適応となるシリコンは経年劣化がおきるため、数年後に入れ替えなくてはいけなくなる可能性があるので、有明病院では保険適応外のシリコンを薦めていると言われました。
癌を治すための摘出手術を受けるのは保険適応ですので、高額医療制度を利用すれば10万円程度で済みますが、再建手術は美容目的であるため、費用がかさむのです。

主人は躊躇なく100万円あげるから、手術受けて来い、と言ってくれました。
当時結婚2年目だったため、私のお小遣いを切り崩せば100万なんとか捻出できるかなぁ、と思ってはいたのですが、買い物魔の主人のこの申し出は本当にありがたかったです。

人間というものは贅沢なもので、命の心配がさほど必要ないと分かると、なんとか傷跡を残したくないと考えるようになりました。
片胸がないという事実は家族以外には知られたくなかったため、傷跡があると友人と温泉や海水浴にいけなくなってしまうことが嫌だと思ったのです。
なんで私だけそのような楽しみから遠ざけられなければいけないのか!?と思ってしまったのです。

命が助かるだけいいじゃないか、と思われると思うのですが、32歳の私にとって、胸に傷跡が残る・片胸がなくなるということは、女性として終わってしまうのではないかという不安に襲われたのです。
そのため、もっと傷跡を少なく手術できる方法はないか、もっと評判の良い病院はないか、とインターネットで検索する日々でした。

色々な方の乳癌体験記のブログを拝見し、日帰り手術が出来る病院や、内視鏡による手術を行っている病院などを見つけました。
特に千葉にある亀田総合病院の内視鏡全摘手術には大変興味を持ったのですが、診察の予約を取るだけで2ヶ月待ちでした。
主人にその話をすると、一日でも早く手術を受けてくれ、有明病院の何が不満なんだ!?と大喧嘩になりました・・・。

後から思い返すと、心配性の主人が夜も眠れない毎日を過ごしていながらも、私にその不安を見せないようにがんばっていたのに、当の本人が手術を遅らせようとしていたら、ちょっとキレそうになっても仕方ないですよね。
しかしその当時の私も自分のことしか考えられずにいて、なんで傷跡が残る私の辛さを分かってくれないんだろう?と思っていました。

病院選びって本当に難しいです。
いくつもの病院で話を聞いて、色々な先生に会いたくなります。
でもそれをすればするほど、手術日は遠のくんですよね。
有明病院に不満があったわけではありません。
しかし、あとからこうすれば良かったと後悔したくなかった私は、色々な可能性を探ってみたかったのです。
そして自分で納得した上で手術を受けたかったのです。

しかし周囲に乳癌のことを黙っていた私には相談相手は多くありません。
検査病院を探す際に相談した生命保険会社に勤務する友人だけには打ち明けようと思い、病院について相談をしてみました。
「ちょっとピンクリボン的な結果で・・・」と伝えた私に友人は絶句し、涙目でお手洗いへ行きました。

その友人はがん保険のパンフレット作成に携わってたため、がん患者さんや、がんセンターの医師にインタビューをした経験もあり、亀田総合病院の患者さんと話したことがあるが、半年ほど手術の順番待ちだったと聞いたそうです。
その後同僚などにも病院の評判を聞いてくれ、有明病院で手術予約が取れているのはラッキーなのではないか、と言われました。

ちょうど世間ではハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが乳癌予防のために、両胸切除を行ったというニュースが話題になっていた時期でもあり、各病院の乳腺科は非常に混み合っている時期でした。
友人からも早く手術してほしいと言われたことで、主人が私に望んでいること、不安に思っていることが、周囲の人間の本音な胸の下部を切開して手術をすれば、さほど痕はんだということが実感できました。

主人と一緒にS医師に話を聞きに行き、なんとか傷口を小さく出来ないか、と相談したところ、乳首の温存が出来そうなので、乳房の下部を切開すれば、あまり痕は目立たないだろうと言ってもらえました。
それでようやく有明病院で手術を受ける決心がつきました。

東京にはたくさん病院があり、同時再建をおこなっている病院も多数ありますが、たくさんの方の体験記を拝読すると、地方在住のため同時再建できる病院がなく、全摘から数年後に再建手術を受けた方や、遠くの病院まではるばる通って手術を行う方など、手術を受けることに数々の困難を伴っていた方がいらっしゃいました。
それに比べたら、自宅から近いことで通院も楽ですし、入院中の家族の負担も軽減できる有明病院は、私にとっては最適な病院だったと思っております。

そして有明病院は2005年に移転のため新設された病院のため、非常に新しくきれいです。
院内にはファミリーマートやTULLY'Sがあり、非常に開放的です。
短い入院期間でも体調が悪いときにきれいな場所で過ごせることは、かなり気分が違います。
こういっては失礼ですが、以前入院をしたことのある、東京医科大学病院は建物の古さが目立ち、全体的に暗い雰囲気で気が滅入りそうになってしまいました。
(こちらの病院は2019年に新大学病院が建設されますので、これからはとっても快適だと思います!)

もし、有明病院を候補として考えている方がいらっしゃいましたら、安心して手術を受けられる病院であると、私はおすすめ致します。